10代後半の私にとって、「羽柴彦六」はヒーローだった。
先年やっと完結した夢枕獏センセイの格闘小説
『獅子の門』の狂言回し役である。
獏センセイの『餓狼伝』よりマイナーだが、こちらはこちらの魅力があるのだ。
さてこの羽柴彦六、手練れの中国武術使いである。
飄々として宿無し、そしてめっぽう強い。
無頼のようで愛嬌も感じさせるという、獏センセイお得意のキャラクターだ。
初めて登場した登場したシーンは太極拳の套路を打っていた。
確か、
「いつ動き出したか分からない内に手足が円を描いていた」
「時おりパンという乾いた破裂音」
「始まりと同様、その型がいつ終わったかわからない」
そんな描写をされていたと思う。
太極拳のゆっくりした動きの練習は、いわば
太極拳というオペレーションシステムのインストールで、
実際の戦闘方法、つまりアプリケーションはまた別物であることは
『拳児』で知ってはいた。
しかし、一流の格闘小説家・夢枕獏センセイの手になる太極拳の描写は、
みち、みち
めじり
あ~~~~~~る~~~~~~
という肉体の軋みとともに真に迫ってきたものだ。
「すげー! 太極拳カッコイイ!」
羽柴彦六の打っていた太極拳こそ“陳家太極拳”。
河南省は焦作市温県陳家溝で人知れず伝承されてきた“はじまりの太極拳”である。
そして今、私の手にする『武術』1992年夏号の表紙に
でかでかと踊る“陳家太極拳”の文字と、
その技らしきパンチで相手を打ち倒す男性の写真!
「すげー! 太極拳カッコイイ!」(リプリーズ)
必殺・肺穴開け人の林大助が病室を後にすると、
私はさっそく『武術』1992年夏号をむさぼるように読みはじめたのであった。
(つづく)
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