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執筆者の写真北区堀船カンフークラブ

同じ雲井の月を見しかな④~宿命編



武術

10代後半の私にとって、「羽柴彦六」はヒーローだった。

先年やっと完結した夢枕獏センセイの格闘小説

『獅子の門』の狂言回し役である。

獏センセイの『餓狼伝』よりマイナーだが、こちらはこちらの魅力があるのだ。

さてこの羽柴彦六、手練れの中国武術使いである。

飄々として宿無し、そしてめっぽう強い。

無頼のようで愛嬌も感じさせるという、獏センセイお得意のキャラクターだ。

初めて登場した登場したシーンは太極拳の套路を打っていた。

確か、

「いつ動き出したか分からない内に手足が円を描いていた」

「時おりパンという乾いた破裂音」

「始まりと同様、その型がいつ終わったかわからない」

そんな描写をされていたと思う。

太極拳のゆっくりした動きの練習は、いわば

太極拳というオペレーションシステムのインストールで、

実際の戦闘方法、つまりアプリケーションはまた別物であることは

『拳児』で知ってはいた。

しかし、一流の格闘小説家・夢枕獏センセイの手になる太極拳の描写は、

みち、みち

めじり

あ~~~~~~る~~~~~~

という肉体の軋みとともに真に迫ってきたものだ。

「すげー! 太極拳カッコイイ!」

羽柴彦六の打っていた太極拳こそ“陳家太極拳”。

河南省は焦作市温県陳家溝で人知れず伝承されてきた“はじまりの太極拳”である。

そして今、私の手にする『武術』1992年夏号の表紙に

でかでかと踊る“陳家太極拳”の文字と、

その技らしきパンチで相手を打ち倒す男性の写真!

「すげー! 太極拳カッコイイ!」(リプリーズ)

必殺・肺穴開け人の林大助が病室を後にすると、

私はさっそく『武術』1992年夏号をむさぼるように読みはじめたのであった。

(つづく)

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