(こんなのも普通に売ってるのねえ・・・)
「あの・・・ちょっとすみません!」
弾んだ息とともに声をかけられ振り返ると警察の方。
「はあ、なんでしょう」
「そのね、“けいじょう”みたいなものを持って通り過ぎられたから、
駅前から追いかけて来たんです」
「けいじょう・・・ああ警杖ですか」
確かに私の片手には剥き身の赤樫六尺棒が握られている。
好天のこの週末、わが街王子の駅前公園でのことだ。
「これは何に使われるんですか?」と警察官氏。
「武術の稽古道具です。いま稽古の帰りで」と私。
「武術のですか。こうやって警察官に声をかけられたことってありますか?」
「いやあ、けっこう長くやってるんですけど初めてですね」
棒や杖に関してはそうだ。
その昔、防刃グローブをはめた屈強な警察官二人に交番に連行されたことはあるが。
(機会があったら書こう。面白いエピソードなので)
「お名前とか分かる身分証明書見せてもらっていいですか?」
「いいですよ、疾しいところは一つもないのでしゃんじゃん見せちゃいます」
保険証を差し出す。
「免許証はお持ちですか?」
「免許はないです」
「じゃあ念のため照会しますからちょっとお時間いいですか?」
これからランチの店を物色しようとしていた昼下がり、
どんな展開が待っているか楽しみなので否はない。
警察官氏、肩口の無線機を起動。どこかに連絡を取り始める。
照会って、何をどうやって紹介するのやら?
符牒と専門用語の中に理解できる言葉がちらほら混じる。その中に、
「・・・佐々木さん。さくらの“さ”・・・」
ははあ、日本語にもフォネティックコードみたいなのがあるのね。
アルファ、ブラボー、チャーリーみたいな。
「・・・了解。お待たせしました。結構です。ありがとうございました」
「いえいえ。ところで照会というのは?」
警察官氏曰く、免許を持っていない→登録機関に照会→免許を持っている
→疾しいところがあるんじゃないか、ということを調べるんだそうで。
「お忙しいところ失礼しました。ではこれで・・・」
「あっ、ちょっと待って・・・」
質問:警察官の方が練習しているその警杖の技は、〇〇流とかあるんですか?
回答:いえ、〇〇流とかそういうのではないですね。
質問:では警視庁制定型とかそういう?
回答:そうでもなくて、われわれ柔道とか剣道を学ぶわけですが、
そういう師範が一緒に教えてくれるんです。昇級試験とかもあって。
あんまり油を売らせては悪いのでお礼を言って解散。
たまにはこんな一期一会。
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