ベルトが道路に落ちている。横にはワゴンセール店のベルトかけ。
風にあおられでもしたのだろう。ひょいと拾ってベルトかけに戻す。
今日も陰徳を積んでしまった、と良い気分で先を急ぐ。仕事中なのだ。
五分も歩いただろうか、シャツの胸ポケットにメガネがないことに気がついた。
実はかけているというオチを回避すべく一応顔に手をやる。
ビリー・ジョエルではないが素顔のままだ。
実際メガネは胸ポケからよく落ちる。不用意にかがみこんだ時など・・・。
あ。
五分後、道を引き返した私は
ワゴンセール店の前の歩道に無傷のメガネを見つけていた。
ふう一安心、とメガネをかけると改めて店の外装に目をやる。
歩道にはベルトのラックの他に腕時計のワゴン。店舗内にはハンドバッグ類。
典型的なその手のお店である。
そのワゴンの一角に見慣れないものがある。
モンキーレンチ? 天川神社の五十鈴? 螺鈿細工?
それらのようでいてちと違う。
一つ手に取ってみると中央を軸にしてくるくると回り始めた。
「どうですか、一点ものの手作りハンドスピナーですよ」
男性の店員さんが声をかけてくる。
「ハンドスピナー、ですか。何なんですこれ」
「回すんですよ。スポーツ選手が使っているところから流行り始めて」
「回す・・・」
確かによく回る。ベアリングでも入っているのだろう。
「集中力がつくとかなんとか」
「集中力が? それは回すことによってですか?
それとも回っているこれを見ることによってですか?」
「さあ・・・。とにかく回すと集中力がつくらしいんですよ」
私の手の中で五十鈴様のものがサラサラ回っている。
集中力云々はさておいて、この感覚、気持ちがいい。
「多分今日私はこれを買うでしょう。なぜなら・・・」
とこなれない英訳文のように私は話し始めた。
この店の前で二回にわたって足を止めることになった事の顛末を。
「縁ですねえ」
「ですねえ」
だから今私の手元には、蓮の花の形をしたカッコいいハンドスピナーがあるのだ。
Comments